『エンジン開発履歴』 後にSBKレース用の車両となるスーパースポーツ車の最高峰を量産する。
開発コード:2310
Ninja ZX-10Rエンジン開発
シリンダはW650と共通でOK。
カワサキ・ニンジャZX−10R (ウィキペディアより抜粋)
2003年のスーパーバイク世界選手権のレギュレーション改定により4気筒車両の最大排気量が750ccから1,000ccに引き上げられた。それまでのカワサキのスーパースポーツ車両はスーパーバイク世界選手権参戦車両のニンジャZX−7R/RR(排気量748cc)の他に1,000ccクラスのニンジャZX−9Rが存在したが、ZX−9Rの排気量は899ccとスーパーバイク世界選手権の新たな最大排気量に満たないものであった。
ZX−10RはZX−7R/RRに代わる排気量1,000ccフルスケールの新たなスーパーバイク世界選手権参戦モデルとして、また、ZX−9Rの後継モデルとして、2004年に新規に発売された。
一般市販車として初めてパワーウェイトレシオが1 kg/PSを切るよう車体とエンジンを組み合わせ(206kg /200PS)、ハードブレーキング時に対応するためにMotoGP参戦マシンZX-RR譲りのバックトルクリミッターも装備している。
エンジンはライバル車両同様、クランクシャフト、メインシャフト、ドライブシャフトを三角配置して前後長の短縮を図っていたが、カワサキ以外の3社がメインシャフトを他の2軸より上にずらして配置したのに対し、カワサキは下にずらして配置していた。(ウィキペディアに多々間違いがあるので修正削除した。)
実は ”2310”の開発ストーリは何も覚えていない。
比較的最近の話し出し一大プロジェクトなのに、開発ストーリの記録も無いし、写真も残っていない。 自分でも不思議に思う程に本当に担当していたのかと思う程であるが、多分、基本設計を自分でしていないので他人任せの仕事になっていたのかも知れない。
当時、山歩きがピークを迎えていたので、青空を眺めては山歩きに思いを馳せていたのかも知れない。
SBK前提のエンジンなのでカムのバルタイが簡単に
変更出来る様にカムスプロケットはボルト止めとしている。
細かい所ではカバー類を取付けているM6ボルトは座面を
広げヘッドを肉抜きした特殊軽量ボルトを使っている。
”ZX−10”エンジンのカットモデル。
”ZX−10R”のカットモデル。
主要エンジン部品の殆どを設計、作図したはずだが記憶が残っていない。
ネットから拾って来た ”ZX−10R”のサーキット走行写真。
基本的なカワサキカラーである ”ZX−10”
ジョナサン・レイ(左)は6年連続でSBKレースでチャンピオンを獲得している。
最近のロードレース、モトクロスレースの結果には興味が無くなっている。
Ninja ZX−10R 22年モデル。 最高出力 203ps/13,200rpm
音対策、排ガス対策を行いながらリッター200psを越えている。
昔はヘッドの吸気ポートをポーティングで拡大して出力アップを図ったものであるが、最近のバイクは吸気ポートは充分拡大されているので、製品をさわらないのがベストである。
コンピュータ以上の機能を持っている ”ECU”の仕様書は
200ページを超えていて沢山の承認印が押されているが、
誰も内容を見ていなくてめくら承認されている。
”ECU”の仕様書をチェック出来るのは電装Grの一部の
エリートだけである。
オイルポンプ、ウォーターポンプは一般的なものであり、
特に変わった点は無い。 余談であるが、ある時、軽量化の為にウォーターポンプカバーをMg鋳造で作ったことがある。機能的には正常に可動していたのであるが、エアー抜きを使用とすると空気では無くガスが出て来た。
そのガスに火を付けると ”ポッ!”と音がして燃えた。文献によるとMgが水に腐食されて出た ”六ふっ化硫黄ガス(SF6)”らしい。
ECUの機能向上に伴ってセンサー類も増えて行っている。
オイルフィイルターの吸込み口位置で述べた様にオイルパンにもエアー噛みしない様に様々な条件のテスト繰り返し、
仕切り位置を決めている。 300km/hからの急減速でもエアー噛みはしません。
カバー類は薄肉Mgダイカストで出来ており、
これ以上の軽量化の余地は無い。
ロアクランクケースにはピストンの上下動で発生する空気の
流れを逃がす連通穴が既に開けられており、追加工する必要は無い。 オイルフィルターの吸い込み口は加速時、減速時に
エラー噛みしない最適位置に設置されている。
チェンジ機構にはモトクロス車で定評のラチェット式を採用した。
量産車は肉抜き鋳造チェンジドラムであるが、ファクトリーエン
ジンには軽量化の為に浸炭総削りチェンジドラムを使っている。
シフトフォークの滑りは鋳造品の方が優れている。
開発時にはかなりのギヤレシオ違いを用意したが、1,000cc
エンジンはパワーバンドが広い為、どこのサーキットでもギヤレシオを変更する必要はなかった。
BTR(バック・トルク・リミッタ―)はクモスプリングの枚数で
調整出来る。 クモスプリングの枚数を減らせばチャンジダウンによるエンブレのショックがが弱くなる。
バランサーを外した時の振動増加に対してはテストした記憶が
無い。 多分であるがレースに使用するのにはバランサーは必要無いと思う。 振動増加が気になるのであれば戻せば良い。
後年発売された ”ZX−10RRにはTiコンロッドが
組み込まれているらしいが、Tiコンロッドの往復部重量は
STDの鉄コンロッドと変わらず、全体重量が少し軽いだけ
なので一般的には必要が無い。 クランクシャフトはバランス
取りが出来る設備があればウエブの追加工で大幅な軽量化が
出来るが、フラマスが下がるので要注意である。
200ps/13,000psでパワー不足を感じるライダーは
レースKitのカムシャフトに変更する手もあるが、歩き
ファクトリーチームはIN、EX共にTiバルブを使っているが、特に感じられるメリットは無いので、一般的には鉄バルブで充分だと思う。
過去は騒音対策=出力が落ちる。であったが、最近は騒音解析で出力を落とさずに騒音対策が出来る様になり、エンジンメカ音の方が目立つ位になってきた。
レース用マフラーとしてはファクトリーチームも使っている ”アクラポビッチ製”の薄肉Tiエキゾーストパイプ、カーボンサイレンサーが優れていると思う。
レース車に仕立てた時もラム圧を利用するのでエアークリーナ
ボックスはそのまま残し、エレメントのみ外す。
ヘッドカバーはMagダイカスト製とした記憶があるが、
記憶違いかも知れない。
”CATIA”による三次元(モデル)での設計が当たり前に・・・
技術部内に子会社であるがソリューション部と呼ばれる ”CATIA”を専門に扱う部門が出来て来た。 大半が若い女の子であり、入社に際しては高度なCATIA教育を受けており、紙図面は読めないがモデリングには抜群の能力を発揮してくれた。
開発機種にはエンジンに1名、フレームに1名のモデラ―が付くことを後から知った。
図面が不要となった部品作り。
全ての部品が図面不要となった訳ではないが、逆にモデルは自由自在に
形状を変化させられるので、カウリング等は3Dデーターにより直接製品を作ることが多くなった。 モデルには体積のデーターを持っているので、材料の比重を入力すれば製品の重量を得ることが出来、外力を加えれば応力も得ることが出来る優れものである。
出来ることが多過ぎてCATIAの世界に付いて行けない古老設計者が増えて来る。